上高地帝国ホテルというと、検索の関連ワードに「予約 取れない」と出てくるほどの人気ぶり。
両親との家族旅行を叶えるため予約開始日に半休を取り、チケット取りで鍛えた早押し力を発揮して宿泊する権利を手に入れたのであった。
【1日目】
都内から公共交通機関を乗り継ぐこと約6時間、ここはアルプスか?と錯覚を覚えるような赤い屋根が現れる。

宿泊者の姿が見えた瞬間、スタッフの方が坂道を駆け上がってきて手荷物を預かってくださるので恐縮してしまった。
今回宿泊したのはツインBのお部屋。

館内は隅々まで山小屋風の内装に統一されており、重厚感あるインテリアに歴史を感じて小躍りする。

客室やレストランにボタニカルアートが飾ってあって素敵だった。

古い建物だから設備も旧式かと想像していたのだけれど、シャワーやトイレ等の水回りは改装が加えられていてピカピカ。
水道は六百山の湧き水が引かれているため飲用でき、癖のないまろやかな味で飲みやすい。散策の際はペットボトルにこのお水を入れて出かけ、飲み水に困ることなく過ごせた。
荷解きを済ませ、早速〈河童橋〉方面に向かう。ホテルのサービスとしてトレッキングシューズのレンタルがあり、両親がお借りしたところノースフェイス製品でとても歩きやすかったみたい。

河童橋から臨む穂高連峰の木々は東山魁夷の絵のようだった。道中にある「クマ目撃情報」の立て看板に慄きつつも〈岳沢湿原〉まで足を伸ばす。

木道整備など人の手が加えられているにも関わらず、車両入山規制のおかげか“人間が生活してる匂い”的なものを感じることなく森林浴ができる。森の匂い(樹液とかなんだろうか……なんとなく甘い感じかした。)をたっぷり吸い込み、下界で澱みきった体内の空気が一新されたような気分になった。
ホテルに戻り、〈ロビーラウンジ グリンデルワルド〉でひと息つく。

ケーキのラストオーダー(16:00)に間に合わず残念だったけれど、軽くつまめるものとしてお勧めいただいた野沢菜漬けと保平赤かぶが絶品!

ホテルのシンボル的存在であるマントルピースの焚き火を眺めながら幸せな時間を過ごす。マントルピースに点火されると、薪が燃える心地よい香りと暖かな空気が客室まで伝わってくることに驚いた。

夕食は〈フランス料理 ダイニングルーム〉にて飛騨牛特撰コースをいただく。







飛騨牛とオマール海老をメインに、鮑やフォアグラも盛り込むという贅の限りを尽くした構成。帝国ホテルのお料理をアフタヌーンティーやビュッフェ以外で初めて口にしたのだけれど、素材の味が引き立つクラシックな味付けに伝統を感じた。奇をてらってるわけじゃないのに 筆舌に尽くし難いおいしさで、「もう今日が地球最後の日でいいかも……」などと思う。特にコンソメスープが格別で、飛騨牛サーロインに熱々のスープが注がれると油がじゅわっと染み出して、旨みどころの話じゃなかった。
レストランから客室に戻ると、ソファがベッドにトランスフォームされていた。

ちょうど良い固さで寝心地やサイズも通常のベッドと遜色なく、散策の疲れもあって爆睡。
【2日目】
6時半ごろ起床し、〈大正池〉方面へ。ホテルから往復すると2時間かかってしまうので、体力や時間との兼ね合いで往路はバスを利用した。バスだと片道6〜7分ほどで到着。

高校の修学旅行で上高地を訪れた母は、「いつか家族を連れて来るからね」とこの池に誓ったらしい。このエピソードは耳タコレベルで聞かされていたので、念願が叶って良かった。どこまでも広がる澄んだ水面に、立ち枯れた木がぽつぽつと佇む様子が美しい。

道中はどこを切り取っても絵になって感動の連続だった。

〈田代湿原〉は早朝の清々しい空気と相まって神秘的ですらある。下界に帰りたくない……と思いつつ歩みを進めると、野生の猿に遭遇してびっくり。

体力には自信がないのだけれど、見たことのない原生林の面白さに疲れを感じることなくホテルまでの道のりを歩くことができた。

心地よい疲労に包まれつつ、待ちに待ったモーニングをいただく。

卵の調理法・付け合わせのホットミール・パンの種類等が選べるアメリカンブレックファーストは否応なしにテンションが上がる。オムレツのビジュアル完璧……ふんわりとろとろ感が人生ベストを更新した。
私はベーコンにしたのだけれど、母が選んだ信州産ハムもすごくおいしかったし、ザクザクのクロワッサンも言うことなしで至福のひとときだった。
ホテルスタッフの方々はちょっとした声かけなどにもわざとらしさがなく、さりげないサポートなど流石のホスピタリティだった。
上高地の自然はまるで異世界のようで、思い返すと「ほんとにあそこに足を踏み入れたのか? 実は夢だったのでは……?」とふわふわとした心地になる。今生でやっておきたいことのうちのひとつを達成できて悔いなし!